木の茶碗

“木のうつわ”に驚く、楽しむ
「わ~! これ、本当に木でできているんですね。見た目には陶器としか思えない。
しかも、こんなに軽いものなんですね!!」
手に取るなり、井上康生さんが声を上げて驚いた茶碗は、木を削って作られたもの。
わたしたちが、ゲストのお二人を楽しませようと、特別に用意したものです。
その軽さは、なんと100g以下。iPhoneよりも軽いのです。
驚く井上さんを見て、ニコニコと笑顔で解説してくれるのは、小椋正幸さん。
南木曽町の山奥にある「木地師の里」において、木地師/塗師として名作のうつわを生み出し続ける、日本伝統工芸界のマエストロです。
「これが木で作られた漆器の魅力なんです。いい漆器ほど、軽い。
この木曽には、木をろくろで削って器を作る木地師の文化と、
そこに漆を塗って漆器を作る塗師の文化が残っているんです」

1200年の伝統と技を受け継ぐ者たち
「美の茶会 01」の後半の舞台となるのは長野県・南木曽町。岐阜と長野の県境に位置していて、美濃茶の名産地のひとつです。
「ここで茶会をやるなら、この人の茶碗しかない!」
そう思い、小椋さんにお声がけすることになりました。
「木地師の技術が生まれたのは、いまからおよそ1200年前の平安時代のこと。
わたしはその小椋家の末裔で、だいたい50代目くらいでしょうか?
もう古い話すぎて、詳しくはわからないですけどね」
と、自らのルーツを語る小椋さん。

ただでさえ数少ない、貴重な伝統工芸の伝承者。
しかも、木地師と塗師の2つの技を持つ職人は、日本全体でも数人しかいないとか。
「両方の技術を持っているからこそ、できることがあるんです。
木目や節などをあえて生かすような、塗りができる。 “木を生かす”のが、わたしの仕事です」

木のうつわで、抹茶を味わう
今回は、小椋さんが作った漆器の茶碗で、小堀さんにお抹茶を立てていただくことに。
茶道家の小堀さんにとっても、木のうつわでお手前をするのは初めてだそう!
もちろん井上さんも、木のうつわで抹茶を楽しむのは初めてです。


「お茶を立てる時の感覚や、お湯を入れた時の感覚は陶器のお茶碗とはまったく別のものでしたね。
茶道家として、うつわの良さを引き出す楽しみがある。
わたしにとって、すごく新鮮な感覚でお茶を立てることができました!」
小堀さんは、小椋さんの茶碗から、新しいインスピレーションを受けたようです。

「お茶の味や香りも、いつも飲んでいる抹茶とは少し違った感じがしますね。特に香りが。
同時に、うつわをずっと触れていたくなるような優しい、落ち着いた気持ちになりました」
井上さんは、お茶の幸福感の余韻に浸るようにしながら、感想を教えてくれました。
「自分の作ったうつわを小堀さんに立てていただいて、井上康生さんに飲んでいただくというのは、小っ恥ずかしい体験でしたが、小堀さんのお手前から、遠州流・綺麗さびの晴れやかさ、雅を感じることができました。
井上さんは『日本の文化を理解して世界に出ていくのと理解せずに出ていくのとでは日本人として示せるものに違いがある』とおっしゃっていたことが強く印象に残っています。世界に出ていくのであれば「日本人」としてのアイデンティティや強みを持っておくことが大切になるんだなと。今回はお二人から、とても貴重な体験をさせていただけたと思っています」
小椋さんは、2人から強いインスピレーションを受けたよう。これからの作品作りが楽しみです。


茶道の流儀に囚われすぎず、お茶碗も「もっと自由に、もっと楽しく、もっと美しく」する。
美の茶会ならではの、新しい茶会を楽しんでいただけたようです。

